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Oct 24, 2022

進化し続けるヴィーガンカフェ「エイタブリッシュ」川村さんが考えるSDGs

近年日本でもSDGsに対する取り組みが推進され、日常でSDGsというワードに触れる機会が多くなりました。企業だけでなく個人でも意識的な行動が求められる中で、私たちにできることとは一体何なのでしょうか。
今回はあらゆる活動がSDGsに結びついている川村明子さんをクローズアップ。そこにはSDGsと向き合うヒントが隠されていました。

話を伺ったのは川村明子さん

 

南青山に本店を構えるヴィーガンカフェ「パーラー エイタブリッシュ」のオーナー。
その存在はヴィーガン店の先駆けとされる一方、美味しさとハイセンスなビジュアルからヴィーガンに限らず幅広い層の人気を集めている。
さらに自身が代表を務めるデザイン会社「Apollo&Char Company」ではクリエイティブディレクターとして商品パッケージやブランディング、建築デザインを手掛けるなどその活動は多岐にわたる。
2020年には “からだ、地球、みんなにやさしい製品” の製造・販売を行う会社「Dotswill」を設立。SDGsを考慮した製品開発に加え、商品の売上げの一部をSmileSmileProject*に寄付するなどあらゆる面から社会貢献に尽力している。

 

*国際医療団体「ジャパンハート」が運営する、小児がん患者のサポートを目的としたプロジェクト。

 

ヴィーガン食にみるSDGs

 

SDGsへの関心が高まる中、環境保護などの観点から日本でも動物性食品を控えようとする動きが見られるようになってきました。最近ではヴィーガンやベジタリアンに加え、「ゆるベジ」や「フレキシタリアン」といった言葉も耳にするほど。スーパーマーケットには植物性ミルクや代替肉の場所が設けられるなど着実にその存在感は増しています。
そんな中、20数年前にヴィーガンカフェを立ち上げた川村さん。長年ヴィーガンをコンセプトとして掲げてきた裏には、目の前の人を喜ばせたいとする強い信念がありました。

ヴィーガン=みんなにやさしい食

 

「初めてカフェをオープンしたのは2000年。知り合いのインテリアショップの社長から『店舗の上階でカフェをやりたいんだけど、何かいいアイデアある?』と声をかけられたのが始まりです。もともとカフェ経営に憧れがあったこともあり、やってみようか、と軽い気持ちでOKしました。
デザイン会社を一緒に立ち上げたパートナーとともにカフェも運営することになり、『せっかくやるなら普通じゃない方がいいよね』って二人で話した結果、ヴィーガンをコンセプトに決めました。
というのもパートナー自身はもともとヴィーガンで、日頃からヴィーガン料理に親しんでいました。それに対して私はヴィーガンじゃないけど、周りにヴィーガンやベジタリアンの友人が多くいたことで馴染みがあって。その友人たちと同じ食卓を囲みたいという気持ちが日頃からありました。
さらにヴィーガンという制約の中で美味しいものを提供する、そこにクリエイティビティな魅力を感じたことも決め手でしたね。
二人の視点は違うけれど、結果的に『ヴィーガンはエンターテイメント(おもてなし)』ってところで意気投合しました。」

 

 

「ヴィーガンは制約が多い分、誰でも口にすることができる。つまり差別のない食事なんです。みんなで気兼ねなく食卓を囲み、食を楽しむ。そうした食事を提供することが社会貢献にもなると考えます。」

ヴィーガン食をポジティブな存在にしたい

 

「エイタブリッシュでは味や素材はもちろん、商品のデザインにも力を入れています。
カフェを始めた当時、ヴィーガンは野菜だけを使った料理であることもあり、華やかさに欠けるため、あまり理解を得られませんでした。料理にデザイン性を持たせ、さらに美味しければマイノリティから抜け出せると思ったんです。」

 

季節限定商品 フラワー&フィグダージリンクッキー

「商品企画からパッケージまで含め、全体のバランスを意識してデザインしています。たとえばクッキーを手に取ったお客様がパッケージデザインに目を惹かれ、蓋を開けた瞬間にその見た目に感動し、口にしてその美味しさにまた驚く。そんなふうに商品で人を喜ばせたい。サプライズ感を演出できるような、クオリティの高いものを作るよう心がけています。」

 

川村さん的SDGs思考

 

国際社会全体が取り組むべき問題として、一人ひとりの意識的な行動が求められているSDGs。
いざ取り組もうとしても何をすれば良いのか分からない…と漠然としている人も多いのではないでしょうか。
活動の多くがSDGsへと繋がっている川村さんは、SDGsを難しく捉える必要はないと言います。

 

人を思いやる、その行動の結果

 

「最近SDGsが急に取りざたされているけれど、それって日本くらいのようです。海外では昔から自然と取り組まれていたから、いまさらSDGsと言う必要もなく当たり前のことなんですよね。
日本も肩を張らずに、ただ誰かのためになることを考え行動すれば良いと思うんです。
周りの人を思いやった結果、SDGsの取り組みに繋がっている、そんなシンプルなことだと思います。」

いつでも柔軟な考え方が大事

常温長期保存食品シリーズ「OhBRVO」のボロネーゼ

一度決めた軸は変えないという川村さんですが、活動する上で重要なのは柔軟に考えることだと言います。
「たとえば今SDGsの取り組みとしてプラスチックゴミの削減が求められていますよね。ですが、プラスチックは環境に悪いものとして、なんでも排除すればいいってもんじゃないと思います。プラスチックの素材を使っているものの一つにレトルトパウチがあるのですが、これは他の素材で代用するのは難しい。プラスチックだからこそ、長期保存が可能になっているんです。極端な話、災害が起きたとき備蓄できる食品がなかったら命の問題に関わります。いくら未来のためとはいえ、今の命が危機に陥るようなら意味がないですよね。
これはこうだからと一辺倒に考えるのではなく、常に何が大切か見失わないように柔軟に対応することが大切だと思います。」

後世に向け持続可能な商品づくりを

“誰かのために”をモットーに行動する川村さんは、未来への社会貢献にも目を向けています。
「私たちが今できることは、“こうすればみんなに支持される商品ができる”といったベースを築くことだと考えます。商品開発の前から、できるだけ多くの人がそれを受け取れて、嬉しくなることは何か。そこをしっかり考えて商品を作り上げることを一番大事にしています。
そうして出来上がった商品を世に出す事で、自分が死んだ後でもその商品の良さや考え方を取り入れて社会のために活かしてくれる人が現れるはず。次の世代へ技術を残して社会貢献に繋げることができればと願っています。」

 

水質改善・浄水処理を研究するUeta LABO社とのコラボレーションによって生まれた商品「Dotswill HAKKA」

そう話す川村さんは良い技術やアイデアは共有するものだと考えています。
「普通は所有しているモノだったり、権利だったり、友達だったり、それを自分だけのものとして独占しがちだと思うけど、私はそれをしないんですよね。自分の持ってるモノで別の場面でも活かせると思ったらすぐ共有しちゃう。
だから素敵な人に出会ったら自分の知っている素晴らしいと思う人を紹介する。そうして繋がっていくことで、新しいことにチャレンジできるし、より良いものが生み出せると思うんです。」
ここでも自分のため、ではなく、常に人のためを思う川村さんならではの考え方が光ります。

SDGsに繋がる取り組み〜Dotswill

川村さんが社会貢献により重きを置いた取り組みをしたいと立ち上げたのが「Dotswill」。人に対してのみならず環境にも配慮した商品づくりを行っています。この会社を立ち上げることになったのは宅間さんとの出会いがきっかけでした。

寄付したいという思いからスタート

宅間頼子さん(写真左側):「エイタブリッシュ」「Dotswill」「Apollo&Char」の役員を務める。ビジネスパートナーであり、信頼できる親友として川村さんを支える存在。

「もともと母親が慈善団体に寄付をしていたこともあり、自分も何かやりたいなぁと考えていました。そうした時にたまたま宅間と出会って。『ジャパンハート』*を手伝っていた彼女の話を聞いて、私がやりたいことはまさにこれだ!と思ったんです。」
宅間さん「初めは売上げの一部を寄付したらどうかなって話だけだったのに、川村がそのうちああしたいこうしたいって次々にアイデアが浮かんできたみたいで。ついには『会社立ち上げちゃうか!』って言い出して驚きましたね(笑)」
*国際医療ボランティア団体。「医療のないところに医療を届ける」をスローガンに国内外で医療活動を行っている。

 

Dotswill創立メンバーである宅間さん、川村さん、吉岡夫妻(写真右側)

 

こうして宅間さんとの出会いからNPOジャパンハートの代表を務める医師の吉岡夫妻も加わり、Dotswillとして会社設立を実現させた川村さん。
会社の取り組みの一つとして、製品の売上の3%を「SmileSmileProject」に寄付することに決めました。
「単に寄付するのでは躊躇してしまう人も多いので、気づいたら寄付してたっていう流れをつくりたかったんです。」
その思いから販売する製品分だけ、あらかじめDotswillから寄付。店頭に並ぶのは、既に寄付し終わった製品で、それを買うことによって購入者も寄付に参加できるというしくみを考えました。

コンセプトは‟衣食住✕医色充”

Dotswillは製品開発にあたり6つのテーマを意識しています。
「自然災害が増える中、これからは“衣食住”と“医色充(医=医療、色=人種など人の背景、充=心が満たされるもの)”を重ねて考えることが大事だと考えます。
東日本大震災が起きた当時、パンなど配布される食事は炭水化物に偏ったものが多く、その影響でこどもの肥満が問題になりました。災害時とは言えど、同じものばかりだと栄養に偏りが出ちゃうし、中にはアレルギーを持つこどももいる。もし医療やマイノリティに対する知識や配慮があればそういった問題を回避できると思うんですよね。だからその6つのテーマを念頭において商品を作れば、すべての人にちゃんとクオリティの高いものを届けられるはず。
その考えがSDGsに繋がると思い、Dotswillのコンセプトとして掲げています。」

 

設立後、みんなにやさしい製品として最初に作られたクッキー。エイタブリッシュで築いたヴィーガン食の技術を活かし、栄養価にこだわった非常食として長期保存できるようになっている。

SDGsに繋がる取り組み〜Imizutto(いみずっと)

幅広く活躍している川村さんですが、活動はそれだけにとどまりません。次の新たな企画として富山県射水(いみず)市を舞台に、農業に着目した地域創生のブランディングを計画しています。その名は「Imizutto」。“射水市がずっと愛されるように”という意味を込めて名付けました。
生きていく上で欠かせない食物。それをつくる存在である農業の価値を高めたいとする気持ちからその取り組みは始まりました。

いのちをつなぐ農業の大切さ

 

富山県射水市の街並み

「以前、三重県のVISONという地方創生プロジェクトに携わったことがありました。その時“サステナブルでオーガニック”な農園エリアを担当したことで、農業の可能性を改めて実感して。その大切さを多くの人に伝えたいと思ったし、「きつい、汚い、危険」と言われているイメージを変えたいと思ったんですよね。
そう考えていた時にたまたま出会った富山在住の人が、こどもたちが遊びながら農業を学べる菜園を射水で作りたいと言っていて。『じゃあ一緒にやろう』って話しているうちに、最終的にアートやカルチャーに触れながら農業の魅力を伝えられる複合施設という規模にまで話は膨らみました。
その一歩としてすでにエイタブリッシュの工房と自社農園をスタートさせています。初めは小さな菜園の企画だったのが、今では壮大なプロジェクトになっちゃいましたね。」

 

おわりに

 

これからに向けて話す川村さんの言葉には絶対に実現させるという力強さが感じられます。
宅間さん「川村と一緒に活動しているとおもしろいですよ。いつも次々にアイデアが生まれて驚かされるけど。みんな彼女のアイデアに惹かれて『それ楽しそう!』ってどんどん巻き込まれていく。そうしてアイデアが形になっていくんですよね。」

自分の得意とするデザインとアイデアを活かし人のために行動する。できない部分があっても自然と人が集まって実現へと向かっていく。

人を惹きつけるアイデアの根本にあるのは、人を喜ばせたいという川村さんの強い思いです。それは特別なものではなく、多くの人が心に秘めているものではないでしょうか。
未来へ向けて自分には何もできないと思わず、まずは人を思いやるところから始めてみませんか。あなたの行動が誰かの幸せな未来へ繋がる一歩になるかもしれません。

 

 

【マグネットな一冊】川村明子さんを引き付けた一冊

『くらしマグネット』の出演者に、その人のライフスタイルに大きな影響を与え、まさに磁石のように吸い寄せられた一冊を紹介してもらうコラム「マグネットな本」。
川村明子さんにそんな本を教えてもらいました。

ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」

 

「こどもの頃から一番好きなのは『なんでもない日、おめでとう』というフレーズが出てくる場面。誕生日をお祝いするのは当たり前だけど、そうじゃない日にサプライズされたら嬉しくなれるでしょ。誕生日は一日しかないけど他364日はすべて何でもない日。そのうち何日かにサプライズや良いことが起こったら幸せ度が高くなる。もしかして私ってすごく良い人生かもって思えますよね。
そういうサプライズをしかけられるようなアイデアを考えるよう心がけています。」