隅田川に反射する日差しの差し込む、あたたかなリビング。お互いに在宅で働くことも多いという料理家の樋口直哉さんのお宅では、朝ごはんは夫婦ふたりそろってが毎日のお決まりです。
連載「朝ごはんの風景」、第2回はシンプルながらも毎日を豊かにするこだわりや自分ルールが詰まっている、樋口さんの食卓にお邪魔します。
MOKUJI
樋口さんの朝ごはんメニュー
現在は、パートナーである奥さまとふたりで暮らしている樋口さん。でも、一緒に住み始める前から、朝食メニューは「トーストとコーヒー」が定番の組み合わせだそう。
料理家として美味しい食事をつくることをお仕事にしている樋口さんですが、朝だけは調味料も量らず、エプロンもせずにのびのびとつくるのだそう。
朝ごはんは、そんな自由を楽しめる時間。栄養効率などにはあまりとらわれず、シンプルなメニューを楽しむと樋口さんは言います。
「もう20年くらい、朝は決まってコーヒーとトースト。気が向いたらサラダを添えたり、オムレツをつけるときもあります。
あとは、日によって妻が野菜と果物のスムージーをつくることも。基本のメニューが決まっていた方が、むしろ気軽にアレンジを考えられるんですよ」
ベースとなる食パンはあえて違いを楽しむ
「朝ごはんがシンプルなのは、昼以降の料理の試作が僕にとっては仕事だから、ということもあるのかもしれません。
研究としてつくる料理では、ガッツリ味付けのメニューを試食することも。その点トースト中心の洋食の朝ごはんメニューは、塩分調整がしやすいのがいいんですよね」
食パンはあえてお気に入りや定番を決めず、いろいろな種類を試してみるのだそう。
「今日の食パンはMAISON KAYSERのものですが、日によっていろいろ食べ比べています。出先の気になったお店で買うこともあるし、コンビニのプライベートブランドも試します。食パンはシンプルだからこそ味の違いがわかりやすいんです。それを朝にゆっくりと味わうのは贅沢のひとつかもしれません」
こだわりのコーヒーは毎日同じ美味しさで
樋口さんにとって、トースト以上に大切なのはお供のコーヒー。あたためた牛乳をたっぷり入れた毎日のカフェオレには、こだわりが詰まっています。
コーヒー好きでいろいろな豆を試しているそうで、今のお気に入りは銀座『BONGEN COFFEE』の深い味わいの豆。牛乳は絶対にタカナシの低温殺菌牛乳、と決めているんだとか。
「普段は豆から挽いたりするけれど、朝はコーヒーメーカーに任せちゃいますね。
コーヒーはドリップの温度などで味が変わってしまうので、こだわり始めるとキリがないんですが…。僕にとって朝ごはんは趣味の探求の時間ではなく、暮らしの一部。
だからこそ一定の味を楽しみたいので、決まった豆に、決まった牛乳。そして一定の味を保証してくれるコーヒーメーカーでカフェオレをつくります。家電に任せておけるので、食べる時間を長めに取れますしね」
野菜と果物のスムージーは余りものを利用して
冷蔵庫の余りものを消費しながら野菜と果物のスムージーをつくるのは、奥さまの担当。
「スムージーをつくるときに、ルールはないんです。冷蔵庫の野菜や果物を見て、余っていそうなものを使いながら、あとはなんとなく色合いだけ気にしています」
「ミキサーは『Vitamix』というアメリカで定番のもので、好きな野菜と果物、それにハチミツやヨーグルトと氷を入れて回すだけ。きちんと量っていないので、日によって味が違うんですけどね」
シンプルな朝ごはんにするメリット
どんなときでも朝ごはんを抜くことはないという樋口さん。シンプルなメニューには、実はいろいろなメリットも。
「身体に栄養を行き届かせて仕事を効率的にするために、朝ごはんは必須です。メニューがシンプルであれば、忙しいときでもサッと済むのはひとつのメリット。それに、毎日同じものを食べていると、結果的に食べ物も無駄にしない。
朝ごはんを食べたり食べなかったりとか、料理をしたりしなかったりすると、どうしても買った食材を残しやすくなりますよね。でも毎日のルーティンになれば、使い切れないとか、家にあることを忘れてしまうことはなくなりますしね」
樋口さんの考える、朝ごはんの楽しみ方
笑いながら話す奥さまの話を聞きながらうなずく樋口さんにとって、朝ごはんは「生活の一部」なのだそう。それがシンプルな朝食を摂り続ける理由なのでした。
暮らしの一部だからこそ無理はしない
「日々味が違ってしまうことも料理の楽しみのひとつ。楽しみを見出せないとつくる作業が面倒になってしまうと思うんです。
例えば朝食を優雅な時間にしたいと考えても、自分のライフスタイルに合っていないと、いつの間にかやらなくなってしまったりするものです」
飽きない秘訣はアレンジの幅広さ
樋口家の冷蔵庫を覗いてみると、たくさんのジャムが。もらったものもあれば、旅先で気になって買ってしまったというものも。
「今の朝食スタイルも、自分の生活に合わないものが年月を経てなくなっていった結果。トーストとコーヒーというシンプルな組み合わせに、徐々に落ち着いていったんです。
基本が決まっているから、たまにはジャムを変えてみようとか、卵1個でオムレツをつくって添えてみようとか、小さなアレンジは意外と気軽です」
トーストとコーヒーというシンプルなメニューのなかでも、食パンを変えてみたり、添えるジャムを変えてみたりと、小さな楽しみがたっぷり詰まっているそうです。
樋口さんの朝ごはんを助ける調理家電たち
調理家電のオタクでもあるという樋口さん。先ほど登場したの『Vitamix』以外にも、暮らしを助けてくれる便利なもの積極的に取り入れているのだそう。
『BALMUDA』のトースターがシンプル食材の美味しさを底上げ
「パンを焼くためのトースターは、いろいろ試した結果BALMUDA The Toasterが僕のベストアンサーでした。短時間で表面をカリッとさせることができて、小麦のいい香りもしっかり立ちます」
「ちなみに、山形食パンを焼くときは山が手前に置くのが美味しく焼くコツです」
『Kalita』のミルクフォーマーで幸せが2倍に
「これまではずっと、100円ショップのものを使っていたんです。でもKalitaのスティックミルクフローサーに出会ってからは、まさに革命が起こりました。
こんなに素敵なアイテムを使わずに今までカフェオレをつくっていたなんて…、と少し後悔するくらい。とても簡単に上質な泡立ちミルクに仕上がるんですよ」
「調理家電のいいところは、人間の手でつくるよりも出来上がりが一定になるところです。例えばミルクを温めるときも、火を使えば早いですが、温めすぎると味が変化してしまう。
でも、電子レンジなら火の入り方も一定ですから、加熱時間など加減を間違えなければ失敗がないんですよ」
おわりに
毎日の朝ごはんルーティンは、もちろんトーストとコーヒーでなくたってOK。自分のライフスタイルに合ったものが勝手に残っていくものなのだと、樋口さんは話します。
「午前中に自分がどのくらいのエネルギーを使うのか、どんな生活をしたいのかをイメージして食べていくかでも朝食は変わってきます。朝は急いでいる人が多いので、機能性や効率性もやっぱり大切。
でも、いかに自分の楽しみを見出すかが、ルーティンを続けるコツ。アレンジにハマるのもいいし、調味料に頼るのもいい。みんながそれぞれ、自分の暮らしに合った美味しい時間になればいいんじゃないかな、と思います」
Photo_Takumi Shinoda(go relax E more) Interview & Text_Shiori MikuniEdit_Yasushi Shinohara
作家・料理家。料理の世界で働きながら、2005年『さよなら アメリカ』(講談社)で第48回群像新人文学賞を受賞し、作家としてデビュー。その他に『スープの国のお姫様』(小学館)、『おいしいものには理由がある』(角川書店)、『新しい料理の教科書』(マガジンハウス)、など著書多数。現在は、作家と料理家の二足のわらじで多才に活躍している。最新作『ぼくのおいしいは3でつくる 新しい献立の手引き』(辰巳出版)が好評発売中。
樋口直哉
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