子どもの笑顔は、日常生活を明るい光で照らしてくれるスポットライト。その輝きの裏側には、ママやパパが試行錯誤して練り上げてきた育児のアイデアやこだわりが隠れているものです。
でも、正解が見えづらい子育てに悩んでしまうことは日々ありますよね。というわけで、今回は子育ての先輩に育児のヒケツ5ヶ条お話を聞いてきました。渋谷区の人気レストラン「HITOTEMA」を主宰する料理家として活躍しながら、子育てや家事もこなす谷尻直子さんの登場です。
MOKUJI
【家族データ】
谷尻直子さん(44歳/料理家):好奇心も生命力も強いアグレッシブお母さん
旦那さん(46歳/建築家):いつも穏やかに家族を見守るお父さん
長男(6歳/小学1年生):ママに似て感情表現が豊かな男の子
普段の生活、谷尻さんの心のパーセンテージ
「普段は母親として育児や家事に集中する時間が多いですが、同じぐらいの熱量を仕事に注いでいます。
趣味と仕事の境界線がほとんどないのですが、頑張りすぎないように5~10%くらいは自分を労わったりリフレッシュすることを意識している感覚です。妻として夫のことを気にかけるのは10~15%くらいかな…。お互い大人なので、ある程度は放っておいても大丈夫(笑)」
谷尻直子さんの「私の子育て5ヶ条」
谷尻さんが日頃の子育てで心がけている5ヶ条をインタビュー。共感できるものから、新たな気づきになるものまで。見逃せないものばかりです。
その1 一緒に遊び、一緒に学ぶ
「休日に家族でキャンプに行くなど、非日常的な体験をさせることも大切ですが、なるべく日常生活の中でも息子の成長を促すような時間を作りたいと思っています。
例えば、朝は料理を手伝ってもらったり、夜はチェスやオセロをして遊んだり。野菜の色の違い(理科)や、ボードゲームで勝つための合理的な思考(数学)など、子どもって楽しいことなら積極的に学んでくれるんですよね。『勉強しなさい』と怒っても、全然言うことを聞かないのに(笑)」
その2 多様性の教育は“食”から
「仕事柄ということもあって、キッチンにはクセの強い外国産のスパイスやハーブがたくさん。将来、息子がどこの国で暮らすことになっても困らないように、普段の食事から世界各国の文化に触れさせるようにしています。
『素朴なおいしさ』が『おいしいもの』だと感じてもらえるように気を遣っていますね。出し汁の旨みや、コンソメキューブを使わずにトマト本来の味でトマトソースを作ったりなど。
それと、物心ついたころから一週間の半分は玄米を食べさせています。ご飯をジャポニカ米以外にタイ米にしたり、黒米を入れたり、サフランライスにしたり。ご飯でいろいろ工夫して各国料理を身近なものにしてあげたいな、と。
パン・パスタ・春雨なども登場しますが、お米はパンと違って日持ちしますし、素晴らしい食材ですよね。無理なく、禁欲せずに過ごしたいものです」
その3 手作りと手抜きを使い分ける
「食育に関して心がけていることは100個以上あるので語り切れません(笑)。たくさんの人にオススメできるのは、コアとなる調味料だけは手作りすることでしょうか。
例えば自家製の塩麹があるだけでもうま味調味料を手放せますし、食事の栄養素も摂ることができますよね。でも完璧を目指しすぎると精神的に疲れてしまうと思うので、カット野菜を使うなど手抜きも全然OK。自分を大切にして、持続できる範囲でこだわることが大事だと思っています」
その4 経験や知恵をママ友とシェアする
「子育てに悩んだときは、SNSで意見を募ったり、自宅で情報交換会を開いてママ友にアドバイスをもらったりしています。
息子の可能性を広げるためには、親が自分の考えに固執しないで幅広い情報や意見に触れておかなければなと。家族や仕事の仲間以外にもコミュニティを築き、『自分にはたくさんの相談相手がいる』と思えることはとても心強いことですよね。
あと子育てに関する本も読みます。左の本はプライベートでもお世話になっている佐藤悦子さんの書籍で、先輩の考えがとても参考になります。右は性教育の本。なかなかタッチしづらいジャンルと思いますが、子どものころからしっかり認識を持たせたいと頑張っています」
その5 笑う門には福来る
「幼いころに『自分が笑うと笑顔が返ってくる』ことに気づいて、それが無性に嬉しかったのを覚えています。私はそれ以来、人前で笑うことを意識してきました。
その影響なのか、息子は他のお友達と比べてよく笑う子どもに育っています。やはり出会いに恵まれるためには、笑顔でいることがとても大切。ただ私は割と気が強くて怒ることもあるので、そこは温厚な夫に似てほしいです(笑)」
育児に関する夫婦の役割分担
「夫は普段、食器を洗ってくれたり、洗濯物を畳んだりして家事を手伝ってくれています。ベランダスペースの掃除など、建築家という仕事柄、家の景観にまつわる仕事は率先してやってくれます(笑)。
育児に関して一番助かっているのは、息子を『叱る』という役割を引き受けてくれたことですね。叱るのはすごくエネルギーのいる任務なので、私が家事や育児、仕事をしながらそこも担おうとすると気が滅入ってしまいそうになることも。夫が責任を持って叱ってくれるようになってからは、『お父さんに言うよ!』のひと言で息子が言うことを聞いてくれるようになりました」
育児のストレスを溜めない秘訣
「精神的にいっぱいいっぱいになりそうなときは、夫に手紙を書いてSOSを求めます。手紙だと冷静に自分の気持ちを1から10まで順序立てて説明できますし、相手もそれを受け止めて自分の意見を考える時間があるじゃないですか。
『言わなくても分かってよ!』ではなく、夫婦間の意識のすれ違いを防ぐためにちゃんと言葉にすることが大切だと思っています。夫から手紙の返事が返ってくることは少ないのですが(笑)、その分ちゃんと行動で示してくれています」
仕事と子育ての両立の工夫
「仕事は子どもが学校に行っている日中に、マックスに集中して終わらせることを心がけています。
幼児のころは寝かしつけの後に夜なべすることが多かったのですが、最近は寝る時間が遅くなってきたので、そこから仕事を始めるとさすがに体力が持たないんですよね。だから、子どもが帰ってきてから一緒に過ごすことに集中して、仕事は子どもがいない時間に。
その区切りを意識してからは、メリハリをつけて仕事と子育てを両立できるようになったと思います」
子育ての楽しいところ
「息子が乳児のころは慣れない母親業が辛いと思う瞬間もたくさんあったし、魔のイヤイヤ期には育児を放り投げたいと思うこともありましたが、でも、それ以上にやっぱり子どもはかわいいです。それまでの人生で経験してきた感動の臨界線を超えてくる存在は、やっぱり子どもだけなんですよね。だから、お子さんがイヤイヤ期を迎えているママも、なんとか耐えていただきたいなと。
ただ、心に余裕がないと、感動的な瞬間を見逃してしまうかもしれません。私自身、今後もときにはパートナーや家族、友人に甘えながら、母親である自分を前向きに楽しみたいと思っています」
おわりに
料理だけでなく、自宅に年齢が違う子どもたちを招いて交流を促すなど、学びの場も「手作り」している谷尻さん。息子さんのおもちゃが集まったコーナーには、お父さんが描いたミニカー用のコースもありました。
暮らしにおいても、育児においても、“ひと手間”のこだわりを注ぐことが温もりを保つ秘訣なのかもしれません。
Photo_Koji Kanatani Interview & Text_Satoshi Asahara Edit_Yasushi Shinohara
谷尻直子
料理家。1976年東京都生まれ。8人家族で育つ。ファッションスタイリストとして活動した後、食の世界で活動を開始。渋谷区の予約制レストラン〈HITOTEMA〉を主宰。ライフスタイルまわりのプロジェクトに携わる。著書に新しい家庭料理を提案する『HITOTEMAのひとてま』(主婦の友社)など。http://www.hai-ilo.com