カーテンから差し込むやわらかな光。挨拶を交わすかのようにさえずる小鳥の声。心地よい目覚めではじまる一日は、美味しい「朝食」とともにありたいものですよね。
本連載では、気になる“朝ごはん”にスポットを当て、こだわりや朝の暮らしをレポート。第1回は、四季に寄り添った食と暮らしを提案する料理研究家・植松良枝さんの朝の食卓にお邪魔してきました。
MOKUJI
植松さんの朝ごはんメニュー
まな板と包丁が奏でる「トントン」というリズミカルで小気味よい音。植松さんのおうちの朝食には、なんだか懐かしい風景が広がっていました。
会社員として働くご主人とやんちゃ盛りの2歳の息子さんに囲まれ、仕事に家事にと忙しい毎日を過ごしています。そんな植松さんの“ふだん”の朝食は、至ってシンプルだといいます。
忙しい平日は良い意味で手を抜く
「家庭を持つ女性なら誰でも同じだと思うのですが、平日の朝は起きた瞬間から大忙し。ですから、基本的にそこまで手をかけた朝食を作ることはありません。
こういう仕事をしていると、さぞかしすごい朝食を食べているのでは?と思われることがあるのですが、良い方向に手を抜くようにして、簡単に済ませるようにしているんです」
お気に入りのふりかけで握った“おむすび”。青ねぎとわかめのお味噌汁。旬の野菜のぬか漬け。そこに、海苔と小鉢が並びます。
「朝は美味しいふりかけが重宝しています。かつお節、にぼし、じゃこ、塩昆布などが入ったふりかけを選べば、カルシウム、マグネシウム、良質なタンパク質といった必要な栄養素をきちんと摂ることができます」
「我が家で欠かせないのはぬか漬け。その時々に旬の野菜や余った野菜を漬けておくだけでいいので、とても便利です。
今日漬けてあるのは、きゅうり、アスパラガス、そしてコリンキー(生食できるカボチャの品種)。好みの漬かり具合になったら取り出し、刻んでお皿に盛っておけば、朝はそのまま出すだけでいいので便利です。サラダなど葉物野菜なども食べたいところですが、朝食なのでそこまで気にせずに。まとめてランチやディナーにいただくようにしています」
家族がそろう週末は、ちょっぴり特別に
週末や祝日など、家族3人そろってゆっくり食事をとれる朝は、もう何品かプラスするのだと植松さん。
甘酒を入れて旨味を引き出したスクランブルエッグ。醤油をたらしたかつお節を添えた刻みオクラ
じゃことししとうの塩炒め。
体に優しく、食べて美味しい、「こんな朝食なら、毎日でも食べたい!」と思わせてくれる料理の数々が食卓に並びます。
「夫が好きな惣菜を作ったり、子どものリクエストを聞いてみたり。週末の朝は、少しだけ豪華にし、家族の笑顔を引き出す朝食を心掛けています」
朝ごはんで心掛けていること
「朝は、そんなにがんばらない。これが私なりのこだわりであり、心掛けていることかもしれません。おむすびをササッとつくっておき、食べたいときに食べられるようにしておけばタイムロスを減らすことができます。
夫が和食派なのでごはんとお味噌汁は必ず用意しますが、私自身はグラノーラやグリーンスムージーで済ませたり、食欲が減りやすい暑い季節はガスパチョを作っておいたり。冬は蒸籠(せいろ)でパンを蒸していただくこともあります」
朝食に欠かせない“ふりかけ”
植松さんの朝食に欠かせないアイテム。それは、“ふりかけ”なのだとか。
「安心して食べられて、きちんと美味しいふりかけがあれば、必要な栄養を摂ることができ、手間なく朝食を完結できます。
中でもおすすめは、フリーズドライの納豆。息子が納豆好きで、食卓に出すことが多いのですが、息子ひとりだけのために1パックをあけるのはちょっと…というときに、このフリーズドライの納豆が役立ってくれます。おむすびに振りかけても美味しいですし、お味噌汁に入れたり、お浸しなどに混ぜたりしても」
“水だし”を用意しておけば、朝がスムーズに
出来合いの顆粒だしを使わないこと。これも植松さんならではのこだわりのひとつです。
「我が家ではだしに香川県伊吹島産のいりこを使った水だしを常にストックしています。
私の愛用しているメーカー・やまくにさんのいりこは、いわしを新鮮な状態で加工しているので面倒なワタヌキ不要で丸ごと入れています。昆布と水を入れて冷蔵庫でひと晩抽出。それ以降は雑味が出てくるので取り出して、塩ひとつまみを加えれば冷蔵庫で2〜3日保存可能です。使い切れない分は早めに冷凍保存しておきます。
これがあれば、前日に残ったお野菜の端っこや、カットわかめなどを具にして、簡単にお味噌汁を作ることができます」
「毎朝の食卓に欠かせないお味噌も自家製のもの。年始に仕込んだものがちょうど食べ頃になりました。こんな感じで家族のためにこだわるところはこだわり、手間を減らせるところは減らして、毎日のルーティーンを簡単にすること。これが私なりの工夫です」
使う道具のこだわり
植松さんの食卓に欠かせない道具たち。その筆頭は、食器としても優秀な“わっぱ”だといいます。
「朝食を食べる時間が家族でバラバラになってしまうときは、わっぱを食器代わりにしておむすびやおかずを詰めておきます。フタができるのでラップなどを使わなくても乾燥を防げるのでエコですし、なにより見た目が愛らしく、いつもの朝ごはんを特別な雰囲気に仕上げてくれます」
「少し時間がある日は、おむすびではなく、おひつにごはん。こうした昔ながらの道具を使うだけで、朝食時間が贅沢になります。
お米は北志賀高原で作られるコシヒカリを取り寄せています。焚き上げるのは、バーミキュラのライスポット。仕事で試してみたことがあったのですが、あまりにも美味しく炊けたので、すぐに購入してしまいました」
秘密兵器!?お味噌汁つくりに欠かせないアイテムとは?
「この“味噌マドラー”は、いろいろな人からこれイイ!と言っていただける便利グッズ。作る量に合わせて味噌を計ることができ、泡立て器状になっているのでお味噌を溶くときも簡単にできます」
パンの温めにも使う蒸籠
小型の蒸籠も、植松さんのお気に入り。特に冬場は大活躍してくれるといいます。
「野菜を蒸したり、パンを蒸したり。天然酵母のパンをいただくときは、蒸籠で蒸したほうがふっくらもっちりとした食感が楽しめるんです。レーズン入りのパンも、蒸すことで中のレーズンがふっくらして美味しくなります」
道具はひとつひとつに意味があるもの。
使いやすく、愛着を持って長く使えるものをそろえておくと、人生そのものも豊かにできるのかもしれません。
植松さんの朝の過ごし方
仕事に、家事に、育児にと、毎日を忙しく過ごされている植松さん。朝はどのように過ごしているのでしょうか。
「皆さんと大きく変わることはないと思います。
夜のうちに落ちたホコリをさっと掃除しながらお湯を沸かし、その後は水だしを温めたりして朝食の準備を。夫が子どもを保育園に連れていってくれるので、その間に、お洗濯をしたりベッドメイキングをしたり。名もなき家事と呼ばれることもたくさんあるので、少しずつ片付けていくようにしています。
実は、我が家でいちばん最後に起きるのが私なんですよ。子供が生まれてからは、率先して家事も育児も手伝ってくれる夫には感謝しています」
おわりに
植松さんの食卓は優しくほっこり。でも、確実に元気をもらえる、そんな朝食でした。
一日の英気を養う「朝食」は、毎日の暮らしをより良いものにするために欠かせない習慣。朝食をちょっとだけ素敵にすれば――あなたの明日がもっとずっと素敵になるかもしれません。
Photo_Yui Fujii(Roaster) Interview & Text_Megumi Waguri Edit_Yasushi Shinohara
食材の旬を大切に、季節感あふれる料理を提案する料理研究家。さまざまな食のフィールドで経験を積み、2003年に独立。日々の飯事(mamagoto)主宰。雑誌やテレビへのレシピ提案、レストランや企業へのレシピ提供を行いながら、料理教室やライフワークの野菜作りにまつわるイベントなどを企画。
植松良枝
@uematsuyoshie